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麻雀蜃気楼 甲良幹二郎  原作/来賀友志 竹書房刊
 ※全3巻。現在どこのネットSHOPも在庫切れ。定価は1・2巻は591円。3巻のみ693円(いずれも税込)

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 学生時代、連載されている頃、この劇画を読んでいたが実はそれほど印象に残らなかった。暗い話が多い・・・という漠然とした印象しかなかった。原作の来賀友志の代表作にして現在も連載が綿々と続いている「天牌」へのアプローチの原型をこの作品に見た。作者が伝えたいことが普遍的なことが伺える。つまり多くの「天牌」ファンにとって、この作品を受け入れられることだろう。むしろ麻雀劇画誌への連載は「天牌」、一般漫画誌への連載は「麻雀蜃気楼」の方がよりベターだったような気もする。「天牌」はコアな麻雀ファンに訴えかけるようなセリフ、闘牌シーン、手順などが続出で、一般ファンがついて行きづらい側面もあると思う。もちろんその世界観に引かれて麻雀を始めた読者もいるのかもしれないが・・・。一方のこの麻雀蜃気楼は勿論来賀友志の原作ゆえに麻雀シーンも禅問答めいた牌の来方をしているものの、幾分闘牌シーン自体の描写は他の劇画に較べると少ないし、ストーリーのディティール自体がしっかりしているので一般の人が入り込みやすい余地はあると思う。なのでこちらの方が一般漫画誌に向いているのではないか?と思った。

 というのも主人公の雄二がたまたまはまったのが麻雀で、この物語は麻雀を別のものに置き換えても成立する劇画だからだ。勿論麻雀劇画誌ゆえにそこは当然麻雀になるわけだが、はっきりいうと麻雀劇画誌に掲載される一般的な作品クオリティを超越する、内容・ボリューム・設定の巧緻さがこの作品にはある。麻雀を期待して読んでいた当時の私はそこが(逆に)ピンと来なかったのかもしれない。この作品は20代の若い社会人に読んでもらいたいメッセージが溢れ返っていた。(むろん30代・40代でも気付かされることは多々あると思う)
 雄二はとある建設会社に勤めるサラリーマン。夢は独立すること。そして今の恋人のチャコと結婚すること。チャコも自分の美容院を持つことが夢で、お互い励ましあって生きている。それに向けて日々仕事に励むのだが、ある事故をきっかけに親しくなった現場作業者の田土に連れて行かれた、東中野の雀荘「ともえ」にいつしか嵌っていく。当初「ともえ」に通うようになったのはビギナーズラックに味をしめていただけだったが、やがて仕事に障害が出て、更に麻雀に勝てなくなると、ついに雄二は自分の「本性」を出してしまう。田土のような現場作業者、ともえと同じビルのすし屋の主人、プータロー、やくざ、何の仕事をしているのか不明な女性・・・ともえに通ってくる人たちに対して雄二は密かな優越感を感じていたのだ。そこには雄二が持っているような夢もとうに枯れ果てたような、疲れを癒すためだけに麻雀に向っている人たち、だと思っていた。そういった誤ったヒエラルキーは、どんな手段を使ってもこの連中に麻雀で負けられないと思う方向性に走り、インチキ点棒を常に懐中に忍ばせておくようになり、微差の勝負になった時それを取り出して持ち点をチョロまかすようになっていた(どこかで見た話ですね)。ある日常連のヤクザが皆に唐突に寿司を振舞った。この人の母が亡くなったらしい。ヤクザになって以来何度も田舎の北海道に帰ろうと思い、青森まで行くも1度も連絡船に乗れなかったらしい。ヤクザになった自分を恥じて・・・せめて一般の人、自分の憩いの場である「ともえ」の人々とお袋を送ってやりたいと思ったらしい。雄二はともえに通ってくる人たち、それぞれにも人生があることを学ぶ。この日は麻雀をやめて飲み会になった。酒宴の中、マスターはお客の中で最も年の若い雄二を呼んでちょっと洗いものを手伝って欲しいと頼む。その際皆には聞こえないように「この間の千点棒・・・あんなことはやっちゃいけないよ」と優しく諭した。マスターは雄二の不正をすべて見ていたのである。雄二は恥じ入り二度とやらないことを誓う。いろいろ話すうちになぜ「ともえ」に来るようになったかをマスターが問いかけてきた。「ともえは居心地がいいんです」と言えば「自分より劣った奴らばかりだから?」と雄二の心の奥底を見透かしたような質問を投げかけてきた。それまで唯のしがない雀荘のオヤジかと思われていたマスターだったが、ここからマスターのスーパーマン化が始まる。マスターは雄二の仕事や生き方の悩みを聞いてあげたりした。マスターのアドバイスは次のような言葉だった。「男の生き方は二通りしかない。強く生きるか、すべてに楽しく生きる・・・どちらも辛いぞ」雄二が憧れる成功者たちが遊ぶ風速の雀荘につれて行き、そこで雄二を打たせ、600万の負けを一夜で作らせる。貯金の150万を下ろした雄二に残り450万はとある4回戦ボーイのボクサーとリングで打ち合い5RK.Oしなかったら、俺が立て替えてやるという勝負を挑まれる。雄二はアバラ骨を骨折しながらも、クリア。マスターは約束通り450万を作りにいく。雄二を伴って・・・。マスターはその世界を引退したが、名の通った代打ちだったのだ。そこで圧倒的に勝ち捲くる貝住という若い代打ち相手にマスターは勝ちきる。
 そしてマスターに言われた男の生き方は2つしかないのうち、「強く生きる」に決心した雄二は猛烈に仕事をする。Mr.Childrenの「Everybody Goes」の「あー 仕事の出来ない奴はこういう あいつは変わった 自惚れやさーーーん」の歌詞のように、出来ない同僚から敵意の目で見られ、疎外感を感じながらも仕事に埋没してゆく。この辺から点棒をチョロまかしていた雄二の心が成長してゆくところがはっきりと判る。やがてそのワーカーホリックぶりは社長にも認められ、ある仕事を託される。東中野の建設予定地内にあるビルのテナントで、最後まで渋っている雀荘の立ち退き交渉だった。その雀荘とは雄二の嫌な予感通り、「ともえ」であった!すごい用意周到な展開。当然マスターはここが自分の最後の砦と、突っぱねる。思い余った雄二はマスターに麻雀の勝負を持ちかける。万が一マスターが負けたら立ち退き要求に応じるといったもの。マスターはこの勝負を受け入れ、一流の代打ち2人を用意する。どちらかが100万点差がついた時点で終了する死闘。雄二はこの交渉が失敗すれば万年ヒラ社員の可能性も高く、独立など望むべくもない状態に叩き落とされる。代打ちたちも裏の世界に君臨した柴田(マスターの本名)を倒して名前をあげたい!という野望があり、四者が自分の明日の為に戦っていた。序盤圧倒的な雀力の違いからすぐに差をつけられてゆくが、雄二はあるあがりをきっかけに勢いをつける。マスターが四暗刻タンキをテンパイし安目のアガリを拒否すると、1巡前までならロン牌だった牌を雄二に切られる。そしてマスターがフリテンの9索タンキ(7888の形に9を引いてしまい、7を切った形)に受けていると雄二が9索を力強くツモ上がった。「8000・16000」雄二のアガリ形は国士だった。マスターは雄二の国士を見抜けなかった自分にショックを受け、その瞬間長年患っていた肝臓ガンから来る喀血(卓上で血を吐くのは来賀劇画の真骨頂!)、そしてマスターは雄二との勝負が未完のまま逝くのであった・・・。
 雀荘で会った赤の他人が強烈な父性を発揮するキャラに昇華してゆくのが来賀作品のオハコ。マスターと雄二の男と男のやり取りがいちいち熱いぞ。

 人生の師を自ら死に追い込んだ雄二。そのショックと慟哭から立ち直り、自らの生き方を模索し決心するまでを終盤余すことなく描かれている。雄二はマスターがとりついたようにハイパー化し、代打ち勝負で一流のプロと互角に戦えるぐらいまで成長してゆき、マスターに潰された後地道にピン雀から復調してきた貝住とライバル関係になってゆく。この構図と2人のやり取りも面白い。ただ勝つだけでなく、何のため勝つのか?、どうして勝てたのか、負けたのか?というメッセージがふんだんに盛り込まれていて、グイグイ引きこまれる。
 最後の方で雄二が600万の借を作った高レート雀荘のママがやはり末期のガンで、死ぬ前に自分のお店で最後の対局をしたいと申し入れ、何かと気にかけ世話を焼いていた雄二と、自分のお店の常連客で死んでいく自分に求婚してくれた有名なTVプロデューサーの秋葉、そして得体がしれない客だが麻雀が生きていることを認めていた貝住の3人を指名した。そして最後の対局。秋葉のプロポーズを受け入れる条件としてママは「あの2人に勝ってね」と。プロとプロが一目置く男の勝負になるはずだったが、ママも秋葉も善戦する。ママは2人(雄二・貝住)の甘さを指摘。「あなたたちもっと人生を重くしなければ、これからも苦戦の連続よ」そして秋葉が小四喜を最終局でアガり、この勝負を制する。
 個人的に1番心に残ったのは雄二がアバラ骨を折られた4回戦ボクサーがその後努力して、日本バンタム級タイトルマッチを戦うシーン。雄二は確かな夢を持っているこのボクサー大友に、屈折した感情・ジェラシーを持っていたが、打ちのめされて血まみれになっても夢に向って懸命に立ち上がる大友を見て、会場から沸き起こる大友コールに合わせて自らも声を張り上げていた。そして強く生きる生き方のヒントをそこに見出す。又他の登場人物ではチャコを雄二から奪い、高レートの雀荘で雄二から600万勝つ事業家・須藤も、チャコに対しての接し方なんかはとても紳士的で自信家で鼻持ちならないところもあるが、実は結構いい奴?といったところも見える。善悪といった簡単な色分けをせず、様々な人生が交差し感化させられるドラマ。とにかく来賀作品特有のワキ役を丁寧に描いている描写が目立つ。
  この劇画も単行本3巻という長さだが、物語が完結するまでの圧倒的な完成度では、右に出るものはないかも。長期連載では間違いなく冗長な展開にならざるをえない麻雀劇画の中にあっては、1話1話の話のテンポも小気味良く飽きさせるところが全くない。意外な結末までグイグイ読み進められる事必定。総合的な評価として、傑作中の傑作といえよう。(絵に違和感を感じていたため評価が低かったのかもしれない。ゴルゴ13に出てきそうな強面のキャラが結構出てくるなぁ・・・と思っていたら作者の甲良幹二郎ってさいとうプロだったんですね)

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